まっしろライター

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「夜森の国のソラニ」3巻(はりかも)

夜森の国のソラニ (3) (まんがタイムKRコミックス)

夜森の国のソラニ (3) (まんがタイムKRコミックス)

 現実の世界で悩みを抱えた人たちが訪れる、眠りの国「夜森」。現実の世界とは隔離されたこの世界で人々は心の傷を癒やし、自分の気持ちを整理して、再び現実の世界へ目覚めていく。この世界の管理人であり、この世界と同じ名前を持つ夜森は、いつものようにこの世界へ迷い込んできた少女を発見する。しかし、彼女は現実の世界の記憶を失くしてしまっていた。記憶がなければ、何に悩んでいたのかも分からず、目覚めることもできない。夜森のよく知る人物と顔が瓜二つな彼女は「ソラニ」と名付けられ、記憶を取り戻すまで夜森の国で暮らすことになる。まんがタイムきららミラクが誇る究極のファンタジー4コマ、遂に完結。

 4コマ作品は、得てして単行本2巻で完結してしまうパターンが多い。1巻が出たのに2巻が出ない、1巻すら出ずに打ち切られる作品もあることを考えれば、2巻で完結した作品はまだ幸せな方なのかも知れない。それでも、2巻という短さだとラスト数話で駆け足気味に話を畳んでしまいがちなので、もう少し読みたかったなぁという印象が強くなる。その点、「ソラニ」は3巻と充分な時間が与えられていた(というか勝ち取った)。20歳トリオこと赤衣、王子、狼人の目覚め。失っていたソラニの記憶。そして、夜森の国の夜明けと、ソラニの目覚め。1・2巻で定期的に登場していた新しい住人は今巻では登場せず、この作品を終わらせるための計画を綿密に練っていたことが伺える。読み終わっての消化不良感は一切なく、良い物語を読ませていただきありがとうございましたという言葉しか出てこない。

 今巻の最大の見せ場は、ソラニが記憶を取り戻すエピソードだろう。彼女の本当の名前は「明」と言い、病弱な双子の妹「令」を大切に想っていた。その令の死を受け入れられず、ソラニは鏡の中の自分自身に令の面影を見つける。令のように髪を伸ばし、令のように大人しくなり、いつしか自分が「明」なのか「令」なのか分からなくなったソラニは、誘われるように夜森の国へ迷い込む。作中の夜市の台詞通り、大切な人の死をきっかけに…というのは、フィクションの世界において「よくある」話ではある。色々な伏線が張られていた当作品の中でも特に重要な謎だっただけに、少し拍子抜けしたのは否定しない。ただ、凄惨な人生を送ってきた屑持も、悩むどころかむしろ恵まれているようにすら見える王子も、そしてソラニも、同じ夜森の国へやって来た。夜森は去る者を追わなければ、来る者も決して拒まない。程度の大小は関係なく、夜森の国への扉が開かれたという時点で、彼女たちは等しく現実の世界で傷ついた人たちなのだ。そうした意味で、漫画の設定として「ありがち」な理由で夜森の国へやって来たソラニは、この作品の主人公に最も相応しいのかも知れない。
 敢えて不満点を挙げるとすれば、いくつかの謎が明かされないまま終わってしまったのは残念。夜森と昼森は現実の世界の人間でなく、最初から向こうの世界の住人だったのか。ソラニや夜森の過去を知っている夜市とは一体何者だったのか、等々。また、ソラニと昼森が文字通り「他人の空似」だったことも気になる。「夜森」と「昼森」、「令(黎)」と「明」という名前からして、何か構想があったのではと思うので。作者のブログに書かれていた「力不足で描き切れなかったこと」が、これに当たるのだろうか。

 2013年は「ソラニ」だけでなく、これが新時代の4コマだというメッセージを市場に発信してきた「月曜日の空飛ぶオレンジ。」「Good night! Angel」の連載が相次いで終了した。それと入れ替わるように、今月から「桜Trick」のアニメの放送が始まり、本誌では上述の作品のどれとも雰囲気が違う「幸腹グラフィティ」が存在感を発揮している。夜森の国と同様に、2014年はミラクという雑誌にとっても夜明けの年になるかも知れない。よもや休刊なんてことになったら…、私が夜森の国に行く。